風神雷神兜をデザインする前は、 金属素材で加工したことがあるのは鋼、亜鉛めっき鋼、鋳造したアルミとブロンズ一作品だけでした。
最近の作品はどれも3Dプリントで作っているので、年季の入った感じを表現するときには金属風のアンティーク加工や金属製の箔をつけるしかありません。僕の作品はデザインと同じくらいその加工技術も評価してもらっているので、今回はブロンズのミニチュア兜の加工にぜひトライしてみたいと思っていました。
いつもプロジェクトの相談にのってくれるi.materialiseのユイと話して、今回はブロンズ兜のひとつに緑青付けをして東京メイカーフェアで展示することに決定しました。作品をわざと古めかしく見せられる緑青を、加工技術として使った経験はありません。以前ブロンズで製作した作品は、時間が経つにつれて自然に濃い茶色に変色していきました。
今回の兜はイベントの関係上数週間で仕上げなければならなかったので、自然に緑青や錆びが付くまで待つことはできません。人工的に緑青風の加工をするのは、僕にとって未経験のテリトリーでした。
僕が住んでいるハワイはそのユニークな自然環境のため、化学製品の物流や使用が厳しく制限されています。毒性のある化学製品を扱えるスペースも用意できないので、今回は手に入る身近なものでブロンズの古色化に挑戦することにしました。
思い通りの質感を実現するため、何通りかのやり方を試してあります。今回紹介するのとは別の加工方法に興味のある方は、次回以降のブログで詳しく紹介します。
こちらが加工前の風神兜。
アンティーク加工を施すにはこのPUコートをはがす必要がありました。やり方はアセトン液に漬けるだけ。マイケルミューラー氏が以前i.materialiseのブログに寄せた記事でもアンティーク加工の方法が詳しく紹介されているので参考になりますよ。
まずは安全第一。僕は作品を加工する際にはいつも実験用保護メガネやマスクを付けます。
アセトンはアメリカの一般的なホームセンターなら比較的簡単に手に入ります。ガラス容器の中にたっぷりとアセトン液を入れたら、ゴム手袋をした手で完全に兜を沈ませます。タオルはアセトンがこぼれてしまったとき用。アセトンを使って作業するときは、野外か換気の良い場所で行いましょう。
合計90分アセトンの中に兜を漬けたら、取り出して乾かす作業。ニトリル素材のゴム手袋をしておくことでアセトンが手についたり手の油脂が作品についてしまったりするのを避けられます。指紋が少しついてしまうだけでも緑青が均一にならないことがあるので注意。
その後は何通りか加工の方法を試しました。卵、食器洗い機用洗剤、重曹、油、アンモニア溶液、塩やお酢など様々なもの使っての試行錯誤です。
最後にたどり着いたのは重曹。溶解しなくなるまで重曹をお湯に溶かした液の中に、5日ほど風神兜を沈めておきました。
結果はすごく濃い緑青になった訳ではないけど、明るい茶色に変色しています。古めかしい雰囲気になってはいるものの、金属独特の輝きも保った質感に仕上げることができました。
明暗をはっきりさせてコントラストを強調するため、ネットつきのスポンジと歯磨き粉、スクラブ入り床洗剤を使って凸部分を擦ります。あまり目立つ効果はないものの、ディテールを浮き上がらせることができました。
最後のステップはコーティング。室内で飾る展示用作品なので、ワックスではなくスプレークリアコートを選びました。クリアコートをかけると深みのある色に仕上がります。